大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(く)79号 決定 1958年10月29日

少年 T(昭和一三・一〇・一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、抗告人名義の昭和三十三年九月三十日附抗告申立書に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用する。

少年保護事件記録、少年調査記録を調査すると、少年は、小学校四年生頃から親の金品を持ち出してはよからぬ友達と遊び歩き、中学に入つてからは、屡々窃盗をして児童委員の指導に付されたこと。昭和二十九年中学校を卒業して後、書店、土建業、醤油店等に働くようになつたが、不良のものと交遊し、競輪にこつて金使いが荒くなり、仕事はどれも永続きせず、昭和三十一年五月には窃盗をして静岡保護観察所の保護観察に付されたが、保護司の懸命の努力指導にもかかわらず少年の行状は改らず、冒頭記載のU方に働くようになつても、仕事に精を出さず、小使銭に困ると盗みをしていたこと。大工である父Vは、少年は私のいうことをきかない、或は本人の更生を念願しているが、自分としてはどうしたらよいか迷つていると述べており、母Yは、少年をもて余していることが認められるから、かような少年の経歴、素行、交友関係、保護者の態度などを総合すると、少年をこのまま家庭におくより、一定期間少年院に収容して規律ある環境の下に、矯正教育を受けしめその性格的欠陥を矯正する必要があるものと認められる。

少年は、現在満十九年十一ヶ月で、数日ならずして成年に達するから、この際少年院に送致されるより、むしろ刑事事件として検察官に送致され、成人と同じ裁きを受ける方が望ましいと主張する。なるほど本件少年は、原決定の数日後に満二十年に達することは記録上明らかであるが、少年は、成人と区別して、なるべく刑事事件として刑罰を以てこれを処罰することを避け、保護処分を以て少年の健全な育成、反社会的性格の矯正を図ろうとする少年法の趣旨から考え、たとえ満二十年に達する直前であつても保護処分をなすを適当と認められるときは、特に少年が成年に達するのを待つて刑事上の刑罰を以て処断するより、保護処分に付すべきである。しかして前記各記録により窺える諸般の情状を総合すると、前記認定のように中等少年院において根本的な矯正教育を受けしめる方が、本件少年のため最も適切、妥当な措置であるから、原裁判所が、少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたのは相当であつて、結局本件抗告はその理由がない。よつて少年法第三十三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 河原徳治 判事 下関忠義)

〔編注〕 抗告申立書は、未送付につき省略。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例